鬱がいよいよ本格化して来た。鬱は一体どこまで落ちるのか。底知れないブラックホールのようだった。まさか自分がこんな状況に陥るとは思いもしなかった。ベッドから何とか這い出しても廊下で動けなくなり、その場で虫のように悶える。この感覚は恐らく鬱になった人間にしか分からないだろう。自分もそうだった。大学のゼミの教授が鬱病を抱え、病症が酷いときは休講になったりしたものだが、当時の自分は状況が理解出来ず、折角レポートを準備したのにと苛立った。今自分がその教授の状況にいる。不安に押し潰され動くことが出来ない。
テレビが流れているが、何も頭に入ってこない。ただのノイズのようだ。この状態から抜け出すには時間経過を待つしかない、ある時ふっと動けるようになったりするのだ。ホルモン影響とのことだが、この感覚はきっと鬱を患った人にしか分からない。
病状がどんどん悪化する状態を放置する訳にもいかないので、メンタルヘルスクリニックの予定を前倒しし、早い段階で診察を受けることにした。医師に状況を説明した所、抗うつ材トリンテックスとロラゼパムが処方された。特に頓服薬であるロラゼパムの効果は著しく、初めて服用した際は転職前の通常の状態に戻ったようだった。
ロラゼパムの効果は約12時間なので、朝服用すれば何とか動けるようになった。何回か朝のロラゼパム服用なしで行動出来るか試してみたが、鬱に悩まされ難しかった。こうして抗うつ剤の服用という条件付きで少し動けるようになった。
ロラゼパムを服用して動けるときは本を読んだり、外を散歩したりした。しかし身体も薬に慣れてしまうのか、動けるときと絶望感は軽くなっているものの、全くベッドから動けないときの波が激しい。動けて希望が見えたと思えば絶望に逆戻りの繰り返し、一体いつまでこのループを繰り返さなければならないのかゴールが見えない。
絶望感が激しいときは非定型の首吊りも再度試みたりした。しかし以前と同じように痙攣が激しく縄が解けてしまう。次第に心霊物を見るようになった。色々な心霊物を見て呪物や有名な心霊スポットへ行けば自分を憑り殺してくれるのではないかと馬鹿なことを考えた。しかし多くは実態のないヤラセという事実に気付き落胆した。自分は死ぬことも満足に出来ない。
この時点で既に休職してから約1カ月強経過していた。本当に自分は復職出来るのだろうか?そもそもあのブラック企業に復職するのが正しい選択と言えるのか、私は思考の泥沼に嵌るばかりだった。