これは今のような猛暑の休日に私が実際に経験した話である。日々の業務で疲労していた私は休日なのにどこかへ出かける気力もなく、その日の夕食の煮物を準備しながらベッドで横たわっていた。冷房を利かせた部屋で少しうとうとしていたが、喉が渇いたので冷蔵庫の前に行きポカリスエットを飲もうとした。しかし、冷蔵庫の中に買っておいたはずのポカリスエットがないのである。おかしい。当時一人暮らしだった私は体調を崩したときのために経口補水液とポカリスエットは常備してあった。しかし、今の冷蔵庫にはポカリスエットどころか、何も入っておらず空なのだ。もしかして私は今、夢を見ているのだろうか?その割には意識がはっきりしている。そう考えた瞬間私は布団を跳ね飛ばしベッドから飛び起きた。
起きた私は汗をかいていた。先ほどの状況はやはり夢だったのだと安堵して冷蔵庫の前に行き、ポカリスエットを飲もうとした。しかし、やはりポカリスエットはない。おかしい、まさか買い忘れていたのか?いやそんなことは絶対にない。もしかして私はまだ夢の中にいるのか?いやでも今ベッドから起きたはずだ。いやまだ私は夢なのか?分からない。悩んでいる内に私はまたはっとしてベッドから飛び起きた。
そしてまた冷蔵庫の前に行く。中身の入っていない冷蔵庫。私は怖くなってきた。これだけ意識がはっきりしているのに、何回も同じことをを繰り返している恐怖。もしかして私はこの夢の中から抜け出せないのではないか。悶々としている内に私はまたベッドから飛び起きた。また同じ光景、同じ雰囲気。ぼんやりしながらまた冷蔵庫の前に行く。空の冷蔵庫。どうすればこの状況から抜けられるのか分からない。私はお腹に力を入れて声を出そうとした。そしてまた振り出しのベッドに戻った。冷蔵庫の前へ行く。冷蔵庫は依然空のままだ。このままではまずいと不安のピークに達した私は全身の力を振り絞るように腹の底から大声で叫んだ。
「うわぁ」と大声と共にベッドから飛び起きた。今度こそ夢から覚めた実感があった。冷房を利かせているにも関わらず全身汗で着ていた服がびしょまみれだった。冷蔵庫の中にはしっかりとポカリスエットや経口補水液、その他諸々が入っていた。私は一体どれ位の時間あの夢の中を彷徨っていたのか、短かったような気も、長かったような気もする。弱火で準備していた煮物は完全に焦げ付いている。あのまま大声を出さず覚醒しなかったら私はどうなっていたのだろうか。